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【匿名座談会】介護業界への参入にあたって知っておきたいこと(前編)

InnoHubでは、介護業界に新規参入を検討しているベンチャー・企業の進出を後押しています。介護業界に進出する際の課題として、一般論ではない業界の真の情報を知らずに事業をスタートしてしまうことがあります。そこで業界のリアルな意見や状況を知り、自社事業のヒントを得てもらうことを目的として、以下のメンバにより座談会を実施いたしました。その内容を「匿名座談会」として掲載いたしますので、介護業界に新規参入を検討しているベンチャー・企業にご参考頂ければと思います。

参加メンバー

  • 介護事業者
  • 介護製品開発業者
  • 介護コンサル
  • 司会

前編


介護業界の本当の姿を見て、安易な気持ちで参入せず、しっかり調査してから参入しましょう

司会:

介護業界へ参入するベンチャー・企業をどのように見ていますでしょうか。

  

介護事業者:

弊社は、これまで国内外のベンチャーから様々な提案を受けてきました。まず思うことは、介護業界の現場ニーズを知らずに、プロダクトベースで現場に来られることがあるということです。

介護機器と医療機器は似て非なるものだと思っています。例えば、医療機器というものは必要十分に機能をリッチにしていきますが、介護機器について、事業者側はそのような製品を望んでいない側面もあります。また、医療機器であれば、承認や認証という仕組みがある中で、介護業界では、そのような仕組みで業界が回っているわけではありません。介護機器は医療機器レベルの高精度や最先端技術を求めていないケースがほとんどです。適切で求められた性能にて、介護業界に適した形として適用するべきだと思いますし、また医療機器に比べて、ロングテールな商売になるため、特徴は押さえたビジネスモデルとなるべきだと思います

一方で、事業者側も現場のニーズをベンチャー・企業に伝えていくことが重要だと感じています。介護業界のビジネスのスピード感は、他業界より遅いかもしれません。昔に比べれば理解されるようになってきたかもしれませんが、まだスピードの差は感じます。事業者側が、ベンチャー・企業側へ業界の慣例をもっと伝えていく必要があります

  

介護製品開発業者:

2000年代に介護記録システムができ、その後、装着型機器のような大型機器が出てきています。最近の傾向だと、手軽で使いやすい小型の機器、煩雑ではないライトなソフトウェア製品が多く見受けられます。今後、在宅方面の機器も増えてくると予想しています

 

介護コンサル:

私は、多くのベンチャーが介護業界に参入し、産業として活性化して欲しいと願っています。一方、様々な企業が参入され、様々な製品・サービスがありますが、参入される方の多くは現場の情報収集が不足していると感じています。

業界の人間として新規参入は大歓迎であります。ただ、幾つかのベンチャー・企業は「なんとなく、これから市場拡大が見込めるから」とか「介護現場の雰囲気は大体わかるので」のような安易な気持ちで参入しており、そのような方々とは中々話が通じにくいと感じています。

  

司会:

業界の規制という意味ではハードルはありますでしょうか。

  

介護事業者:

規制を作って参入のハードルをあえて高くする必要はないと思っています。自治体や業界で一定の枠で、一定の基準やルールを作る動きはありますが、介護業界自体が市場のボトムアップで現場から成長してきた業界でと考えています。自治体ごとにニーズも異なります。つまり、ベンダーは自治体ごとに求められているものや、そのお作法が異なり苦労しているかもしれません。

  

介護コンサル:

規制がサービスにより多岐にわたっているので、「規制した方が良いサービス」と「規制しない方が良いサービス」があります。具体的に申しますと、直接的に利用者に何らかの影響を与えるサービスは、規制やガイドラインを設けた方が良いです。

例えば、BtoB(Business to Business)にはなりますが、ロボットは利用者に接して何らかのリスクを負わせるのでガイドラインが必要だと思います。事業所に対して直接サービスを行うものは、「規制しない方が良いサービス」に相当するのではと考えています。

  

介護製品開発業者:

私は、起業する際、医療業界か介護業界かを考えたのですが、介護業界の方の要望が強かったのです。その後、事業所の方々と接点を持つ形で参入していきました。経験上、規制は適切に働いていると思います。

  

司会:

過去と比べて、新規参入者の質はどう見えていますでしょうか?

  

介護事業者:

特に2010年代初頭においては、介護業界への参入を楽観的に考えているベンチャー・企業が多かった印象があります。ただ、その中で、しっかり介護のことに向き合っている方も当然いて、そのマインドが今拡大している感覚です。「とりあえず市場が伸びそうだから、介護業界に参入する」というベンチャー・企業は減ってきた印象があります。

  

介護コンサル:

現在でも、「まだこんな領域の改善ができるのか」や「この発想はなかった」というようなサービス・機器が出てきており、嬉しいと思っています

  

介護事業者:

少しずつ、大手企業の参入も出始めている印象を持っています。大手企業となると、自社のレギュレーションもあり、それが介護業界と見合わず苦労されている印象もあります。大手企業だと、利益計画がしっかりしないと、事業を開始できないはずなので、ベンチャーとは参入の入り口が異なるかもしれないです。ただ、大手企業だからこそ、できることがあるのは確かであり、期待しています

  

新規参入の余地は大いにあり、介護業界も新規プレーヤーを求めています

司会:

業界的にある程度プレーヤーはそろっている印象ですが、新規のプレーヤーは入る余地はありますか。

  

介護コンサル:

現状、サービス・機器の種類、質、量も、まだ現場のニーズに足りておらず、新規のプレーヤーは入る余地は十分あります。業界全体でレベルアップが必要で、もっと多くのプレーヤーに参入して、介護の質を上げて欲しいと思っています

  

介護製品開発業者:

新規参入があるからこそ、技術が磨かれると思います。

  

介護事業者:

これまで、介護業界はブラックボックス化されていて、ベンチャー・企業からすると市場が開かれていないと思われていたのではないかと思っています。単に、市場が開かれれば良いという話ではありませんが、もし閉鎖的な市場と思われていたのであれば改善したいと思っていました。

  

司会:

他の業界からの転用製品や転用サービスをどのように見ていますか。

  

介護コンサル:

他の産業向けに展開している製品・サービスに対して、多少の改良やアレンジをして展開しているサービスは昔からあります。他業界の人材紹介サービスを転用し、介護業界で成功した例はあるが、サービスの種類にもよるのではないかと思います。ただ傾向として大きく成功しているイメージは余りないかもしれません。

  

介護製品開発業者:

介護業界と言っても、事業所内外のオペレーション、人材、物流・商流、他多数の区分けがあります。どこに課題があって、他産業のノウハウを介護業界のどこに活用できるのか考えた方が良いと思います。他の産業向けに展開している人材サービスを介護業界に転用したら、事業所のコストが上がったケースもあると聞いています。一方、介護業界も積極的に、他産業のノウハウを聞いて、良ければ取り入れるべきだと思います。

  

介護コンサル:

金融的なサービス、不動産サービスから展開して、老人ホームを紹介するビジネスもあり一定の市場規模になっていますが、利用者や事業者ともに試行錯誤しながら進んでいる印象があります。

  

新たなソリューション提案は既存の何かを壊すことです、ただし、介護業界の特性を理解することが前提です

司会:

ベンチャー・企業が介護業界へ参入する際に直面する「壁」、また「厳しさ」は何でしょうか。その「壁」、「厳しさ」を打破するために何が必要でしょうか。

  

介護製品開発業者:

介護施設の中のオペレーションだけ見ても実態はとても複雑ですし、消耗品1つの物流だけをとっても特殊な商流であります。そこに参入する際、既存のビジネスや商流を壊してまで変化を与えるべきことなのかということは自問自答しつつ、業界の方と良好な関係性を築いて、十分理解し合うまで議論する必要があります。業界の誰と組んで、どのように進めていくかが重要な論点であり、また最も難しいポイントではないかと思います。

新しい事業をやることは既存の何かを壊さないといけません。これも壁であると思います。その壁を打破できるかは、介護現場の方だけでなく、施設外のステークホルダーも含めて、お互い理解し合うまでコミュニケーションを重ねる必要があります

この業界は、介護保険という枠でビジネスを考えていく必要もあります。もし、新しい加算ができて、機器導入によりその加算が使えるのであればビジネスとしてわかりやすいです。

  

介護事業者:

介護保険は大変重要です。事業所からすると、製品・サービスの決定の際、介護保険適用なのか否かは非常に大きい意思決定要素です。また、今までの前提を軽んじたビジネス提案やオペレーションは、いくら便利で優れた製品・サービスでも現場にとっては抵抗感があるものとなります。

介護業界は特にバイアス、保守性がある業界であります。介護保険のあり方が変わると一気に流れが変わります。歴史的にも介護保険と、それに立脚したビジネスモデルを理解する必要があります。 また、製品・サービスの使いやすさなどの効果を、定量的なエビデンスとして取得を目指す時点では、現場が慣れておらずエビデンス構築に苦労があるかもしれません。その点は事前に理解した上で、事業を進めて頂ければと思っています。

  

介護業界の構造特性を理解すると、業界関係者との会話もスムーズです

介護事業者:

介護業界は、前例主義が基本のマインドで、「新しいことをやります」という風潮が出ても、結果的に本当に少ししか変わらないのです。背景としては、既存のものを壊してチャレンジするまでのインセンティブが現状事業所側にはなく、リスクが伴うからです。

また、介護保険制度の改定が3年1回の機会しかなく、その間ベンチャーはどのようにして事業を継続していくかも大きな壁であります。保険制度の変更の時間軸とベンチャーの資金繰りの時間軸に大きな隔たりがある印象です。ベンチャーにとって、3年に1回の介護保険制度の改定にはチャンスはあるが、当然結果もわからず、新規参入には大きな壁があると感じています

  

介護コンサル:

重複しますが、介護保険という制度の中でプレーヤーが多岐にわたっているので、それぞれの課題とニーズが全然違います。

例えば、老人ホームと訪問介護では、共通する部分もありますが、事業計画、経営の仕方などの考え方は全く異なります。更に、老人ホームといっても何種類もあり、法人形態も医療法人、社会福祉法人、大企業、中小零細の株式会社、NPOなどがあり、法人種別とサービス種別で考え方が異なります。更に、革新的に経営している事業所、昔ながらの考えで経営している事業所で経営意思も多種多様です。

自社のコアターゲットをサービス種別と法人種別の2軸でマトリックスを作って、どこの領域に自社の製品・サービスが最も適しているのか検討するべきだと思います。例えば、一部のリハビリ施設に使える器具を開発しても、ビジネススケールが拡大できない可能性もあります。今後の展開を考慮し、全体で使ってもらえない難しさも整理する必要があるのです。

また、難しい部分が、同じ業界人でも意見を聞く人で考え方が異なるので、参入するベンチャー・企業が課題を整理できない時が必ずあります。その結果、業界参入の入り口が見えず、多くはそこで立ち止まってしまいます。

事業所にとって費用対効果が重要ですが、コスト、人件費が増加傾向で、今後解決する糸口が見えていない状況です。この状況ですので、事業者は新たな製品・サービスへの投資をためらいます。しかし、ベンチャー・企業は、事業者に対してコストが下がる話ではなく、付加価値をアピールする話ばかりを提案しています。ベンチャー・企業は、当然付加価値に対する費用を請求しますが、事業者はその付加価値よりも費用を気にしています

また、業務改善につながりそうなサービスも、事業所のオペレーションに照らして本当に導入前と比べて業務改善になり、ベンチャー・企業に費用を払ってでも使う価値があるのか事業所の実態に合わせて確認した方が良いです

  

介護事業者:

介護は保険が密接に関連したビジネスです。キャッシュのやり取りが日々生じているわけではありません。介護現場は就労中にお金を見ることはほとんどありません。現場側は、「製品・サービスを購入したのだから、少しの故障やトラブルでもメーカ側が何とかするでしょう」という意識が強いかもしれません。ベンチャー・企業はそのような方々を説得して購入してもらわないといけません。

また、購入にあたっても、事業者は補助金を使うことがあります。購入して使って終わりになってしまっているところがあります。本来であれば、使用感や改善効果を評価して、介護保険にフィードバックしたりするような仕組みが必要だと思います。補助金を使う限り、使用評価が共有される必要があると思います。

  

司会:

いい商品を作るだけではなく、その商品を現場で使ってもらうためのトレーニングや施設側への支援も必要でしょうか。

  

介護製品開発業者:

まず商品を使ってもらい、成功体験をしっかり現場の方に体験して頂くことが重要です。その後、商品を使いこなして実際に結果が数字や金額で表れてくると、「この商品は良い」という実感をようやく持って頂けます。

  

介護コンサル:

介護業界は、良い製品・サービスかより、「誰から紹介されるか」や、「誰が推薦しているのか」が重視される側面はあります

これまでの議論を聞く限り、業界への参入は壁と厳しさしかないように思いますが、逆に言うと、介護業界の中に一回入り込むことができれば、その後は長く付き合え、展開はしやすいと思います

  


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