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【特集】審査員から見たJHeC2020~ライフタイムベンチャーズ 代表パートナー 木村様インタビュー(前編)

1/23のJHeC2020では、過去グランプリ受賞者であるベンチャーの皆様に、グローバルで見た際の国内ヘルスケアベンチャーの立ち位置や、今後JHeCを発展させていくために必要な要素、日本のエコシステムに欠けているピースなどをテーマとして忌憚のないディスカッションをしていただきました。

一方、審査員の目線で見えている景色はどうなのでしょうか。JHeCとはどういった場になっているのか?JHeCの様子からも見える国内のヘルスケアベンチャーの様相は?今後のヘルスケアベンチャーやJHeC、InnoHubに必要な要素は何なのだろうか・・・
今回は、InnoHubアドバイザーとしてご参画いただいており、JHeC2018から3年間審査員としてご参画いただいている木村亮介様に、今回の、そしてこれまでのJHeCを踏まえたお話しを伺いました。


ライフタイムベンチャーズ 代表パートナー 木村 亮介 様

PwCアドバイザリー合同会社及びKPMGヘルスケアジャパン株式会社にてインフラ/ヘルスケア領域に関するコンサルティング業務に従事した後、独立系シードVC・インキュベイトファンドへ参画し、ispace、Gatebox、Misoca、ベルフェイス、iCAREなど40社超の投資先支援に従事。
2017年1月にライフタイムベンチャーズを設立し、ヘルスケア領域含むプレシード/シードステージに特化したインキュベーション投資を行っている。
経済産業省J-Startup推薦委員、ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2018・2019・2020審査員。一橋大学商学部経営学科卒業。


―今回、セミファイナル・ファイナル双方の審査員としてJHeC2020を見ての所感はいかがでしょうか。

JHeC2020で審査員は3年目ですが、基本的にはいい変化しかないな、と思っています。
一つは、応募者の裾野やレベルは本当に上がってきているなと思っています。セミファイナルが特に印象的だったのですが、あれだけ聴衆のいるオープンな場でのプレゼンや質疑に耐えうる方が非常に増えていて、「ヘルスケアだから」という大事なところは残しつつ、ビジネスとしての完成度を上げていこうという面が洗練されているな、ということを量・質ともに感じる場でした。

またファイナルで印象的だったのは、例年以上に「社会課題の解決」という部分にまっすぐ取り組んでいる会社が評価されていた点です。
グランプリになった2社ともですが、ビジネスモデルでいえばグランプリ企業以上に先に進んでいる会社さんもいたように、左脳的に考えたスケーラビリティや参入障壁については、課題も含めていろんな議論が出る会社だと思います。
そういう中でも、このような会社・起業家が選ばれるようになった背景として、審査員側やサポーター企業、現場の方の「そろそろ社会課題をなんとかしないといけないのでは」といった如何ともし難い感覚と、「できない理由をいうだけでは進まないから、やっている人を応援しよう」という空気感があったと思っていて、それによって、やるべきことに誰よりも命を懸けてまっすぐに取り組む起業家に応援が集まるという構図が例年でも一番大きかったのでは、と思います。
これまでのJHeCの中で、当初はやはり完成度の高い会社がグランプリを獲得していましたが、CI Inc.さんのあずかるこちゃんもいい感じにこれから感がまだありますし、mediVRの原さんが優勝した時のような「医師が起業する専門的なサービス」というトレンドは生きつつも、「本当にみんなが解いてほしい課題を解いてくれる専門家集団」という形になっているところがユニークかなと思います。


―ベースとしての質は上がりつつ、さらに難しいところにチャレンジしていく、という形でしょうか

これまではヘルスケアという「課題だらけ」の領域の中で「できるプラン」「成り立つプラン」「まねできないもの」が評価されていましたが、一周し始めていて、あれもこれも一つは日本国内で見たことがある。
その中で「もう一つ突き抜けた会社になるには」とか、「本当は大事なのに誰も直視してこなかった課題」という点で顕著だったのが、働く人のお子さんの健康や、介護の人材問題だったのかなと思います。
また、例えばカイテクさんの取り組んでいるワークシェアの領域であれば既にタイミーさんなど何社かあって、こうした「未来の働き方」や「現役世代」といったヘルスケア以外の領域での実績・評価があるのであれば、ヘルスケアの太い課題にその文脈でチャレンジしている企業を応援しよう、という空気が流れたのが印象的でした。


―こういった「流れ」「空気感」は他のビジコンやヘルスケアのベンチャー全体で見られるものでしょうか。それとも国の冠がついたものだからこそ顕著なものなのでしょうか。

両方あると思うのですが、例えばカイテクさんはまだまだアーリーな段階ですけど様々なピッチイベントでも優勝されています。そんなビジネス目線で見ても興味を持ってもらえるチームが大きなチャレンジをしたいので、国の冠のあるJHeCという場所で一つのきっかけづくり・応援団づくりをしたいとして集まっている面はユニークな点であると思います。

一方、やはり他のビジネスコンテストやビジネスの文脈でも、デジタルセラピューティクスのようなディープなヘルステック領域や、医療機関向けのSaaS領域など、「色んなうまくいく形」が併存している中で、「もう一度本丸の太くて大きな課題に対して解決していこう」というところにリスクマネーを供給しようという流れが出来ていたり、応援する人たちをまじめに支援しようという流れがあったりします。
これはベンチャーサイドの裾野が広がったという供給の面と、広がった中でも手触り感を持ってユーザー課題が解決されている感がないという需要側の「このままで本当に2025年2035年を迎えていいのか?」という焦りの両方の中で、本質的な課題に対するサービスが出てきたことが、「とはいってもビジネスでしょう」というところから明確に変わってきつつあるところかなと思います。


―「とは言ってもビジネスでしょう」という部分もあって、JHeC2019からアイデアコンテスト部門を立ち上げて、今年はグランプリを設けました。去年と比べて、グランプリが出来たからこそ変わったと感じられたことはありましたか?


勝つことに関して健全な意味でアグレッシブな人が集まるようになったと感じています。
例えばカイテクさんは勝つためにすごく努力をしていたのではないかなと感じました。実際セミファイナルからファイナルの間でサービスをローンチされていますし、いろんな人からブラッシュアップを受けたと思うのですが、「出られたら良い」ではなく「出るからには目立たないと」、逆に言うとそれくらいのメリットがないとスタートアップが本気で取り組んでくれない面はあるので、本気度は間違いなく上がったと思っています。

また、これは昨年も同様ですが、アイデア部門のある意義で言えば、大阪大の三隅先生のように、限りなく具体的なシーズまであって、本気で取り組むチームメンバーもいて、最後のくびきを越えるためにあの場に出てくるように見える方がいらっしゃることも印象的です。


―「目立たないと」という意味もあって、今回セミファイナルも公開にしました。


よかった点だと思います。「大人数の前で話す」ことは、起業家としての基本的な大事な第一歩という側面がありますが、その機会は人それぞれです。その点、あれだけのオーディエンスがいる打席が用意されているというのは参加者としては明らかに良い場になっていたのではないかと思います。

また、日経ビヨンドヘルスさんがセミファイナルも記事にされていましたが、そういった面も含めて、あそこから1件でも2件でも、オンラインでもオフラインでも、「あの人面白いな」とミーティングされた数があるかというのが、本当の意味での成果ではあると思います。
名刺交換している風景があったりと、何かは起こっているだろうとは思いますが、さらに追加で出来ることがあるのであれば、皆さんの同意の上で、誰かが登壇者に連絡を取りたければ、InnoHub経由で側面支援も含めてサポートされたりすると、参加者側としてはありがたいのではないかなと思います。


―カイテクさんは非常にブラッシュアップされた、というお話もありましたが、セミファイナルからファイナルまでで、登壇者の変化感は大きかったですか?


程度の差はありますが、やはり一番変化率が大きかったと感じるのはカイテクさんです。
サービスをローンチした点と、顧客の声を取ってきたという点が全てだと思いますが、ローンチ自体が簡単でないし、現場の方と開発者の間に大きなギャップがあるのがヘルスケア領域の特徴である中で、現場の方からフィードバックを受け取れるところに、1,2ヶ月の間で到ったというのが一番印象的でした。
1,2ヶ月でこれやったんですというスピード感や、最速で要望を実装できるチームといったメッセージは、VCの立場や、実務に近い立場でサポートされている他の審査員の方にも魅力的に映ったのではと思います。

私がVCとして投資判断をするときに、初めてお会いしたときには「面白いとは思いますが、本当にできるんですか?ニーズ検証きちんとしてもう一度来て下さい」と、Noに近い保留判断をすることがあります。
で、3週間くらい経って「ユーザーの申込が取れました!」といってきたりすると、コロっと投資したくなってしまったりします。
ニーズをアジャイルで形にしていくことは起業家として一番重要な適性だと思っていますし、後々正解を導くだけの試行回数を重ねられる人が勝つのではないかと思っているので、「ビジネスがその期間で明確に進んだ感が出せるか」「この短期間で出来たことがこれなんです」というということが非常に大事だと思っています。
サポーター団体が期待するのも、自分たちの中でやろうとするとすぐに動けないことに向かってくれるスピード感が期待値なのだと思いますし、瞬間最大風速的なビフォーアフターを感じられるチームはもっともっと増えて欲しいなと思っています。

ビジネスコンテストも同様で、「直近でのアップデート」はベンチャー投資をする観点でも重要で、例えばデューデリジェンス(DD)の期間中に変化できた会社は投資が決まることが多いです。社長のリソースがDDなどのファイナンス部分に割かれて、業績があまり上がらなくてもおかしくないのに伸びる。
基本投資しない理由を探すDDの間に期待値を超える伸びを示されたら、投資しない理由を探しているほうが馬鹿らしくなってくるということがVCの世界にはあると思っているので、セミファイナルとファイナルの間の変化感、急成長していることや、いろんなことを繰り出せていることなど、来年以降のプレゼンの中で、リクエストできるのであれば参加者に聞きたいポイントだなと思います。
それが見えればこのチームはそのアジリティを持っている、ということが分かりますし、サポーター団体からも「この短期間でそれをやったんだ」と思うポイントもあるでしょう。実行者としての存在意義をもつスタートアップ・ベンチャーとして、「短期間で何を成し遂げたか」があれば是非アピールしていただきたいと思っています。


―「チーム」ということばが先ほどから沢山出ていると思っているのですが、やはりチームこそがこの「最大瞬間風速的な」ものの源泉になるイメージでしょうか?


私の一意見ですが、結構そういう時代であると思っていて、背景で言えば、デザインとエンジニアと医療職とビジネス・・・といった必要な専門職種が分断されがちなヘルスケア領域で、誰か一人だけではなく、上下の関係ではなくてチームとして進められることが、この2020年代の日本ヘルスケアベンチャーの成功モデルを作っていくポイントなのではないかと思っています。

課題は様々なメディアや海外の情報とかも含めて非常にアクセスしやすくなっていますし、情報収集した上での「筋のいい領域」というものがどんどんコモディティ化している。
それよりも誰かが狙っているかもしれないが、誰と一緒にやるか、どう立ち上げられるかという点で、馬力のあるチーム、総合力のあるチームがあることが優位なのだと思います。

例えば去年上場したメドレーは、ビジネスの専門家の瀧口さんがいて、医師の豊田さんがいて、CTO、HR・・・というバックグラウンド豊かなチームで、やっていることは非常にシンプルなオンライン診療システムなわけじゃないですか。
競争優位の源泉がビジネスモデルそのものや技術シーズそのものというよりも、どうそれを届けるか、形を変えていきながら届けられるかに寄っていると思います。

エムスリー、エス・エム・エスなどがデジタルヘルス1.0―超優秀な人が空いているヘルスケアの領域で起業する時代があって、その後メドピアさんのような第二世代―医師主導で専門的なサービスで起業する形。第三世代はビジネス・ヘルスケアの上下ではなく、それぞれがチームとして問題解決ができるかが、成長スピードや事業の大きさに影響を与えているように思います。
創業期にバックグラウンドが全く違う人が3人集まっている会社は強いです。逆にどんなにいいことをやっていたとしても、デザイナーが一人いないだけで伝え方が稚拙になったり、エンジニアがいなくて作れなかったりといったことが起こると思っています。

今回のJHeCで言えばCI Inc.のプレゼン資料は完全にプロのデザイナーが作っているスライドで、そのスライドのクオリティと、ストーリーテリングのクオリティ、そして実際に実務でやってきたことの積み重ねがあったから皆の心を打ったし、日々の取組みで行政や個人の方に説明をされるときでも胸を打つことができるのは、園田さんが素晴らしいのはもちろんですが、一人でやっていないという点が大事なのではないかと思います。


〔後編はこちら