【匿名座談会】介護業界への参入にあたって知っておきたいこと(後編)
InnoHubでは、介護業界に新規参入を検討しているベンチャー・企業の進出を後押しています。介護業界に進出する際の課題として、一般論ではない業界の真の情報を知らずに事業をスタートしてしまうことがあります。そこで業界のリアルな意見や状況を知り、自社事業のヒントを得てもらうことを目的として、以下のメンバにより座談会を実施いたしました。その内容を「匿名座談会」として掲載いたしますので、介護業界に新規参入を検討しているベンチャー・企業にご参考頂ければと思います。
参加メンバー
- 介護事業者
- 介護製品開発業者
- 介護コンサル
- 司会
後編
介護現場で働く方々は「福祉人」としてプライドを持って、介護の質をよくするために日々奮闘されています
司会:
ベンチャー・企業が知るべき介護現場のリアルな意見(現場はこんなサービスを全く望んでない)を教えて下さい。
介護事業者:
介護現場で働く方々は、「福祉人」だというプライドを持っているし、またそのような人材を育成できる仕組みになっています。
介護報酬で要介護度別に支給額が定まっています。利用者の要介護度が上げれば、その額は増えますが、そのようなことを望む事業所は世の中に存在しないでしょう。
介護現場で働く「福祉人」は、施設に入居されている方、在宅の方に、少しでもより良い生活を送ってもらうために日々奮闘しています。福祉の理念に賛同できる商品・サービスというのは入り口としては比較的受け入れられやすいと思います。製品・サービスの精度についても、必要以上の高精度なものは不要で、介護現場の必要とするレベルで直感的に理解されることが必要でしょう。
「福祉人」のプライドを尊重する、そして福祉感や介護感に共感できるような製品・サービスであれば現場に残る可能性は高いと思います。一方で、コストは必ず掛かるのでそこはバランスを見ながらの判断になります。
例えば、センサー類の製品を購入しただけで、無人のサービス提供になっているかと言われるとそうではないです。今のところの製品・サービスは、職員の業務と融合して初めてソリューション化されます。職員の手をどのように使うかを含めて考えられれば、現場としてはいいものになるかと思います。
介護コンサル:
事業所側の特性として、施設、職員に個別のニーズは多くありますが、業界全体として基本的に保守的な業界なので、新しいものは受け入れられづらいということを理解する必要があります。「福祉」ということに対して誇りと思いを持っている方々なので、もしお金儲け満載の気持ちで新規参入者が来たら、市場はまず嫌悪感を持つでしょう。業界が持っている福祉マインドについて、共通の認識を大切にして会話した方が良いと思います。
介護業界のビジネスに対する考え方やマネジメントの感覚は必ずしも、一般のビジネスパーソンのそれとは一致しないことも多々あります。ベンチャー側は、現場ニーズに合致した良い製品・サービスを作って、更に使用者が十分使えるようになるまでの落とし込み方までを検討の上、サポートする必要があります。
司会:
福祉人としてのプライドを尊重しつつ、現場での課題解決の提案をするということでしょうか。
介護事業者:
ある装置は、職員にとって大変便利なツールなのですが、利用者を拘束しているような感じを受け、利用者の尊厳を崩しているのではないかと思われています。そのような製品は、事業所としては購入しにくいのですし、企業が期待したほどには、売れていないと聞いたことがあります。
現場は、寝たきりの利用者でも少しでもベッドから離床して頂いて、少しでも外の空気を吸って頂こうとしますし、その思いのもとに現場のオペレーションとして作っていきます。
「福祉人」としても思いに賛同する利用者が付いて、それをやりたい事業所が出れば、事業所間にも企業間にも競争関係は出てくるはずです。基本的に人間は老いてくわけですから、要介護度が上がるスピードが従前より緩やかになる効果をどのように評価していくか大切ではないでしょうか。保険料の抑制にもなりますし、自立支援として要介護度が上がらない状態を評価する仕組みを作ることもできるように思います。
介護コンサル:
その通りです。ほとんどの事業所は介護の質を良くしたいという意識を持っていることに間違いありません。一方で、介護の質を良くするだけの製品・サービスではだめで、費用対効果も同時に考えないといけません。資金に余裕のある事業所は、質が良くなるだけの製品を導入できるかもしれないが、そのようなことができる事業所は少ないです。介護の質は良くなるが、コスト増で、利益が下がる可能性も大いにありますし、利用者の満足度は高まるが、それが直接的に売上げに寄与するわけではないかもしれません。
この時に、経営者の思考を考えることが重要で、経営者はどこにお金を使うかというと、人(介護職員等の施設に関係するステークホルダー)にお金を使うと思っています。
介護事業者の一番の関心は人材の確保です。
例えば、職員の業務効率で残業代が減るソリューション提案がよくあるが、残業代が減るというだけでは、訴求力としては不十分であり、「この製品・サービスで職員の業務負担が軽減され、今より時間に余裕ができて、職員が辞めにくくなる、また『一人当たりの採用コストが〇〇円なので、事業者としペイします』」とストーリーを持って訴求すると良いでしょう。
また、職員の業務負担を軽減するような機器・テクノロジーの効果を経営層、マネージャー層、現場とそれぞれに合わせて提案していくと良いでしょう。
介護製品開発業者:
2通りの考え方があると思います。1つ目は介護保険の中で、この製品・サービスを使うと業務負担軽減につながるというもので、2つ目は、業務負担は変わらないが、この製品・サービスを使うと、利用者により良いサービスを提供できるようになりますというものです。
ベンチャー自身がやるべきことは負担軽減か、質の追求か、参入の際はどこを目標にするのかしっかりと考えた上で、事業展開を検討した方が良いと思います。 特にレベルが高い製品・サービスは今後の海外展開が視野に入ってくるでしょう。
「自立」のためのソリューション提案が、今後の業界トレンドです
司会:
介護ビジネスのトレンド、今後の業界動向を教えて下さい。
介護事業者:
トレンドという意味ではセンサー系の製品が多くなるのではないでしょうか。様々な調査でも、バイタルデータを取るようなデバイスや、見守り系の製品・サービスが主流になってくると思います。また、今後在宅でもそのような製品・サービスは受け入れられると思います。
介護製品開発業者:
施設向けより、在宅向けがベンチャーで増えてきている印象があります。これまで申してきた通り、介護業界への参入へは高い壁(介護保険が前提となり、収益化まで長い時間を要すること、他)があることは事実なのですが、在宅向けについては、ベンチャー・企業は国内だけではなく、今後海外展開を見据えていけるようなビジョンを見て頂く必要があると思います。海外での事業経験が、逆輸入の形で、国内にも返ってくるケースもあると思います。
キーワードは「自立」です。海外では、親と子は離れて暮らすことが多く、独居の方、老老介護の方、そして在宅介護であり、高齢者の生活をどのようにして「自立」させられる策を打てるかということです。
在宅で自立をしたい方に、人材ではなくてテクノロジーを用いた在宅介護の提案が重要なのです。中国でも介護人材不足の状況であり、テクノロジーは世界的に求められると思います。 人の手を介さず、自立した生活を在宅で行うためにはどうしたらいいかということを、海外に展開し、更にそのノウハウを国内に持ち帰ることは今後とても重要になると思います。
課題が山積するこの成長市場で「Social Venture」の一員として一緒に奮闘しましょう、その先に海外展開も待ち受けています
司会:
介護業界のプレーヤーになる方々へメッセージを教えて下さい。
介護コンサル:
介護業界参入へ難しさの話ばかりになってしまいましたが、基本的にはこれからベンチャーが重宝される時代になります。これから業界も大きな変化が生じると考えています。これからの20年間は劇的に変わります。今は、まだ変化の入り口にいる感覚ですが4、5年で状況は変わってくるはずです。
重度の方は手厚く介護し、軽度な方には自立支援を促していくことが求められると思います。今後はナンバーワンかオンリーワンしか生き残れないかもしれません。小さくてもキラリと光るサービスで生き残っていくのか、総合的に大規模なスケールで介護を行うか、変化の時がいずれくると思います。保守的でなく、変化に照らし合わせて、サービスを作り上げることになります。
また、トレンドということで言えば新型コロナウイルス感染症が介護業界を変えた部分もあります。
介護業界はデジタルが苦手でした。しかし、今般否応なくオンラインツールを使うことになり、ほとんどの事業者がオンライン対応をできるようになっています。まさに、今が新しいことを導入できるチャンスの時なのです。
保険外サービスも、業界への浸透という意味では少し時間が掛かるかもしれませんが、10年以内には機運が高まると思います。本来、保険外領域はベンチャーが最も活躍できる領域ですし、今まで保険外を提案してもうまくいかなかったが状況が変わるはずです。新しいことを突然やりだすと、うまくいかないので、一度この介護業界に入り込んで、そこから保険外サービスを提案していけばうまくいく可能性は高いと思います。
介護製品開発業者:
この介護業界が活発になって欲しいです。また今後、介護業界のプレーヤーになる方には、世界を視野に入れて開発をしてもらいたいと思っています。世界の先進国は今後高齢化が進みます。例えば、中国には2億人程の高齢者がおり、これは日本の人口の倍です。目を向けるべきは国内と世界の両方のはずです。
日本で介護提供の仕方を実証しながら、世界のパッケージにしたいなと思います。日本式介護として、ホスピタリティある介護モデルを海外に出していくことも想定して欲しいです。また、日本式介護の海外展開をするために、国、業界が支援して欲しいです。それを見て、介護を考えると、ベンチャーも大手も、介護に対する捉え方も変わってくるのではないでしょうか。
また、業界の進展を急ぎたいです。世界のベンチャー・企業が国内で入ってくる前に手を打ちたいです。
介護業界のプレーヤーになる方々に、まず今の日本の「介護」に入って、そして海外に羽ばたいて頂きたいです。そこに、更に大きな市場があると思います。
介護コンサル:
今後この市場は成長します。また、現場の課題は山ほどあります。これから新規参入する方々にとって多くのチャンスがある業界だと思います。 私は、介護ベンチャーは「Social Venture」だと思います。是非、一緒にチャンスにあふれるこの業界で、「Social Venture」の心意気を持つ方々にお会いしたいと思います。