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【座談会】 ヘルスケアベンチャーに必要な法律知識(後編)

InnoHubでは、ヘルスケアベンチャーの業界進出を後押しすべく、情報発信をしています。ベンチャーにとって、経験のないヘルスケアの各業界に進出する際の課題として、ヘルスケアに関する十分な法律知識を持たずに、また一般論だけではない具体的な情報を知らずに事業をスタートしてしまうベンチャーが一定程度いることも事実です。そこで、InnoHubでは、ベンチャーが一般論だけではない具体的な法律知識や、困った時の対応方法を知ってもらうことを目的として、「座談会」を実施いたしました。

参加メンバー

  • ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所
    根本 鮎子様(写真右下)
  • Smith, Gambrell & Russell, LLP
    小島 清顕様(写真左)
  • Smith, Gambrell & Russell, LLP
    猪子 晶代様(写真右上)
  • 司会

本座談会は2022年10月3日に実施し、当該時点における法令・規制の内容、市場の状況及び政治体制に基づき議論しております。最新の法令・規制内容等については、読者の皆様ご自身でご確認頂きますようお願い申し上げます。また、本記事において述べられている事項は、参加メンバの個人的な見解を示したものであり、所属団体等の意見・意向を反映又は主張するものではありません。本記事において提供する情報は、あくまで一般的な情報として提供されるものであり、具体的な専門的アドバイスを提供するものではありません。そのため、本記事の内容を利用されたことにより生じた損害等について、参加メンバ及びInnoHubは一切の責任を負いません。本記事に関するお問い合わせは、【InnoHub事務局】までご連絡ください。


後編


広告規制

司会:

ヘルスケアベンチャーが知るべき広告規制について教えて下さい。

 

根本様:

まず、広告にも規制があるということを意識するとよいと考えています。自社製品をどのように展開していくのかという方針にも関係しますので重要なテーマです。広告の内容をどのようにしたいのか、更に自社事業をどのように展開していきたいのか、それにも関連するのが広告規制です

広告規制との関係でみかける具体例としては、未承認の医薬品、医療機器の広告は薬機法上禁止されているにもかかわらず、広告をしてしまうケースです。2014年の薬機法改正で、アプリやソフトウェアについても単体で医療機器として承認されるようになりました。このアプリについて、健康アプリの広告の仕方によっては、未承認医療機器の広告規制違反と疑われる例があります。

また、ヘルスケア特有の事例で申し上げると、広告規制の内容について、薬機法の中に規定されている代表的な規制が2つあり、誇大広告が禁止されていることと、未承認の医薬品、医療機器、再生医療等製品等の広告が禁止されていることが挙げられます。誇大広告については、法律では、医薬品、医療機器等の広告内容は、薬事承認等の範囲内と決められています。

もし、皆様が薬機法対象外、すなわち雑品として、ビジネス展開していくと決めた場合には、広告の範囲を医薬品、医療機器的な表現ではないものにしないといけません。もし違反をした場合は、薬機法違反ということになり、罰則の適用を受けたり、表記ラベル変更によるコスト発生、企業のレピュテーションリスクも発生します。Webサイトの記載や製品パッケージの記載については初期の段階から十分気を付けて欲しいと思います。

また、化粧品等、医薬部外品の場合でも、各業界団体が定めている自主基準や医薬品等適正広告基準を確認する必要があります。ヘルスケアベンチャーの中には、製薬企業、若しくは医療機器メーカー向けの製品・サービスを展開する企業もありますが、その場合、カスタマーであるヘルスケア関連企業がどのような基準、規制を守らなければならないか確認する必要があります。製薬メーカーであれば日本製薬工業協会、医療機器メーカーであれば日本医療機器産業連合会のプロモーションコードやガイドライン等の自主基準が存在しますので、皆様のクライアントである企業がこうした自主基準を含めたルールを守れるように、製品・サービスを作り込んでいくことが重要です。

なお、医療機関側が広告できる事項も医療法、また、その下にある医療広告ガイドラインにおいて制限されています。また、医療用医薬品や医家向け医療機器について、一般向けの広告の禁止という規制があり考慮する必要があります。医療広告ガイドラインについては、医療機関のみならず、「何人も」との表現になっており、主体に限らず適用されますので、医療広告に関連した製品・サービス展開をしているベンチャー企業においては、理解しておかなければいけません。

他にも、医薬品等適正広告基準では、医薬品・医療機器等の、他社製品の誹謗広告が規制されている等の規制があり、広告は、その内容・文言に一字一句注意する必要あります。いずれにせよ、法規制、ガイドラインに記載されている内容、範囲を事前に皆様の中で理解して、専門家と共に早めのチェック体制の構築をしておきたいところです。

 

司会:

違反するケースとしては、広告規制を知らないで違反してしまうのか、広告規制自体は知っていたが見落として違反してしまうのか、どちらのケースが多いでしょうか。

 

根本様:

広告違反のケースとしては、広告規制自体を知らずに、広告を掲載してしまうケースが一定数存在するように思います。例えば、過去の議論として、フェムテック(Femtech)の広告を例に取ると、薬機法上、タンポンは医療機器、生理用ナプキンは医薬部外品で分類されており、そうなると経血を吸収するショーツはどれになるかという話がありました。経血を「吸収する」という表現をするならば薬事品に該当し承認が必要になるといった整理がなされました。多くの一般消費者は、医療機器か医薬部外品か等の薬機法上の分類を気にして購入しているわけではないと思いますので、新しい製品・サービスが出てきた時に、メーカー側も自社製品に対しどのような広告規制が課されるのか知らない可能性もあります。

リーガルマインドをもちアンテナを張り、自社製品に対してどのような広告が違反になるか知ることが、トラブルを回避するポイントにもなります。広告規制については、専門家や規制当局含めて官民で、わかりやすく整理して、発信していくことも必要だと思います

 

猪子様:

米国では、一般的な広告やWeb広告については、州を超えた広告扱いになり、連邦政府の管轄であるFTC(Federal Trade Commission:連邦取引委員会)にて規制されています。

医薬品はFDAが管轄であり、FDAのガイドラインに準じて広告しなければいけません。ちなみに、必ずしもFDA承認の必要のないサプリメントの広告規制もFDAからガイドラインが出ており確認する必要があります。日本と異なる部分では、FTCもFDAも大変わかりやすいWebサイトがあり、どのようなケースが違反で、どのような広告は問題ないか、読み手にわかりやすいように整理されています。専門家に相談することに加えて、政府機関のWebサイトをご覧頂くことで、十分に内容を理解することができます。また、州法の確認も必要です。

社員の雇入れ・解雇時の注意点

司会:

ヘルスケアベンチャーが知るべき、社員の雇入れ、解雇時の注意点について教えて下さい。

 

小島様:

ベンチャーの皆様は、ステージを問わず早急に経営陣、社員を誰か雇い入れたいという時があると思います。例えば、医療系大手企業からの転職応募者から、「大手企業在籍時のネットワークを活用できる、」「この業界での経験が十分あり、業界のお作法を熟知している」等の理由で、給与面や福利厚生面等で大手企業と同等若しくはそれ以上の待遇をベンチャーに要求してくるケースをよく見かけます。中には過大な要求をしてくる例も見受けら、特にその様なシナリオ下、一旦冷静になってお考え頂く事をお勧め致します。交渉の仕方、要求内容で相手のキャラクターを判断することも重要です。そもそも、当初からそのような過大な要求をしてくる人材は、本当にベンチャーにとって良い人材なのか立ち止まって考えて欲しいです。(もちろん、適切なお方でありうる可能性も大いにあります。)

アイデアや知財がクリティカルなベンチャーは、雇用条件や退社後の機密情報禁止等を記したオファーレターを事前に整備し、それを相手に提示し、併せて誓約書(Covenant Agreement)に署名頂くことをセットで対応されると良いでしょう。雇用契約はどうしても企業側が縛られることが多いのが実情です。企業側が人材に求める3年契約もあるにはありますが、従業員が辞めたかったら辞めることはできますので、企業側は注意が必要です。

米国では、多くの人材コンサルもおり、またPEO(Professional Employer Organization:習熟作業者派遣組織)といった制度もあります。海外展開として人材を取得する際には、そのような制度を使う方が良いと思います。

 

猪子様:

米国では、転職者から「米国に長くいて、日本語も話せて、医療系ネットワークがあり、各方面にコネクションも多くあります」という口車に乗せられて、契約してしまうケースもありますが、その人材の見極めが重要です。また、いきなり、オファーレターを出して、正社員にしなくても業務委託契約を交わして、一定の期間に一定の関係を持って、どのように自社に貢献してくれるか見極めるということも、人材獲得における選択肢の一つとしてお勧めしています。優秀な人材を米国で確保する時に、ベンチャーに限らず、米国進出を目指す日系企業に言えることですので、相手方の言い分だけに飛びつかないように注意して欲しいです。

 

根本様:

これもヘルスケアベンチャーに限りませんが、人事管理は上場を目指していく上でも注意が必要な事項の一つです。日本でよくあるトラブル事例としては、各種ハラスメント、残業管理、偽装請負の問題です。適切な人材管理は重要なテーマであると思います

 

小島様:

上場関連の話で言いますと、最近、日本企業・ベンチャーが米国で上場したいと仰る相談が多くなってきたように感じています。それ自体はチャレンジングで、有意義になり得る事で、我々もご起用頂く前から全力でサポートさせて頂きたい限りです。一方、本当に米国で上場するべきか?という点は真剣に考えて頂く必要があると思っています。

「米国での事業展開・米国での成功」=「米国での上場」とはならず、またはその逆のケースの方が多く、仮に、米国上場を決断された場合、膨大な情報整理やコンプライアンス活動を熟す必要があります。会社体制のみならず、自社事業が正当な事業であるということを投資家や行政に説明するだけで、期間としても3年~5年程費やすこともありますし、多くの費用も発生します。更に、上場後のオブリゲーション等も大変です。上場することも、また上場を維持することも大変な労力を使います。米国での上場は、会社存続に直結しますので、注意深くご検討される必要があると思います。

 

根本様:

日本のベンチャーは米国と比べて上場を目指す傾向が多い印象です。米国だとM&Aも選択肢だが、日本は他のエグジットの選択肢を目指すことが少ない傾向にあるかもしれません。

ヘルスケア業界へ参入したい皆様へメッセージ

司会:

今後、ヘルスケア業界に参入するベンチャーへメッセージをお願いいたします。

 

根本様:

本日は、ヘルスケアベンチャーが事業を推進するにあたり、どのような規制があって、何が落とし穴になるのかということを主にお話させて頂きました。

法規制の理解は重要ですが、それに加えて私がお伝えしたいこととしては「諦めない心を持つこと」です。これから、活躍されるヘルスケアベンチャーの皆様は新しいことに取り組んでいくことになるでしょう。そうすると、現状の法規制では、何かしらのブロッカーがあることも想定されます。そこで諦めてしまうのではなく、そのブロッカーがなぜあるのか、法の趣旨を考えて頂きたいです。そのブロッカーとなっている要因を整理することで、糸口が見えてくる場合があるでしょう

一例として、OTC医薬品のネット販売について以前は禁止されていましたが、行政訴訟もあり薬機法が改正され、現在はネット販売が解禁されています。他にも、製薬会社の患者サポートサービスについて、医行為に該当するのかがサービスの展開にあたり問題になった事例があります。その際は、グレーゾーン解消制度が活用され、一定の範囲内において問題ないとの回答を得てサービス普及が進んだ事例もあります。他にも、治療用アプリは医療機器として扱われるようになるという薬機法の改正がありましたし、対面での服薬指導が国家戦略特区での実証実験を通じて、法規制がアップデートされて全国展開に至った例もあります。

ベンチャーの皆様が事業を行う場合には、法規制上の関連項目を早い段階で確認して、専門家と共に、検討を進めることをお勧めしたいです。専門家からすると、相談時期は早ければ早い方が良いのではないかと思います。また、企業・ベンチャーと専門家の相性もあるので、決め打ちではなく、複数の専門家と話してみることも必要かもしれません。事業を適法に行うために、また上場前審査や投資のタイミングでもコンプライアンスは審査されますので、その意味でも、早めの相談が良いと思います。

専門家へのコンタクトの実施においては、InnoHub等の公的サービスもあり、こうしたサービスを通じて専門家とのつながりを作っていくことも良いと思います。

 

小島様:

ベンチャー一般、そして特にヘルスケアベンチャーの皆様にとって大事なことは「自分・自社が何を知らないかを知ること」だと私は思います。これは、とても難しいことですし、1人の人間でできることには当然限界があります。そのために専門家に相談されると良いと思います

米国に参入されるなら、いつかは出会う4人の専門家(サービスプロバイダー)がいます。銀行、会計士、保険ブローカー、弁護士です。特に、必ず避けては通れないのが保険ブローカーだと思います。(弁護士は、結構最後の方かもしれませんね!笑。)

相談方法や情報の発信スタイルも十人十色のやり方がありますので、自社、自分と最も合う専門家と連携して、「自分の知らないこと」をなくしていくことが重要です。

 

猪子様:

ベンチャー、企業の皆様は、事業展開を考える際に、北米への進出を考えるタイミングはあると思います。北米は、次の3つの理由から非常に魅力的な市場であると思います。1つ目は、市場、研究インフラ、投資家が北米に十分集まっていることです。2つ目は、薬価規制がかなり緩く自由競争が発達していることです。様々な保険の種類やカバー範囲があり、価格を下げていければ、対象となる保険も増えていくことになります。FDAの承認が取れたら、高い保険から適用されていくことになりますが、どの保険にカバーしてもらうかで、どんどん市場が開拓されていきます。日本とは異なる保険制度になります。3つ目は、バイデン大統領はじめ、国をあげて、ヘルスケア市場の成長を目指しています。また国民性としても新規サービスや新しいモノを、積極的に試していく性格があることです。新たな医薬品やサプリメントを試すことに、日本ほどには抵抗感がないので、新しい発想を持つベンチャーには、やりがいのある市場だと思います。自社製品がどの程度、米国市場に受け入れられるのか、試すには最適の市場でもあります

一方で、米国は訴訟大国でもあり、適切に専門家と相談をすることも重要であります。本日述べたテーマのみならず、リーガルチェックはきちんと対応して頂きたいです。日本のベンチャーが、北米市場に参入されご活躍されることを祈っています。

 


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