ヘルスケアの社会実装に必要な連携とは。 Rhelixa・ヘルスケアStarSI・STATION Aiに聞く【後編】
インタビュー参加者
神谷 亮汰
Rhelixaでは、IPOを見据えた経営管理と事業基盤構築の両面から会社を支えながら、「エピクロック®事業」の立ち上げをはじめとした事業開発全体をリードし、抗老化・ロンジェビティ市場の創出と発展に取り組む。
松元 雄基
スタートアップにて企業とのマッチングや連携などのオープンイノベーション業務を経験。Rhelixaでは、STATION Aiでの活動やヘルスケアギルドの立ち上げを担当。
水野 正明
名古屋大学大学院医学研究科を修了。脳神経外科医として診療に携わり、同大学医学部附属病院の先端医療・臨床研究支援センター長、先端医療開発部長などを歴任した。ヘルスケアStarSIの統括事業代表者を務める。Rhelixaを弘前大学へ紹介し、誰に何を届け、社会へどう還元するかを問いながら、社会実装を支援している。
木村 恵
2021年からフェムテック分野の専門家として起業や新規事業を支援し、一般社団法人ウィメンズヘルス・イノベーション協会の理事を務める。STATION Aiでは共創を通じた新事業の創出に取り組み、コミュニティ課の責任者として、入居者同士の出会いやギルドの活動を支えている。
後編では、地域を越えた連携を支えるInnoHubへの期待を起点に、研究・開発・事業といった言葉の認識をそろえる重要性、研究成果を次の担い手へつないでいく考え方について伺います。
さらに、これから社会実装に挑戦する研究者やスタートアップ、企業、支援者が、連携を生み出すためにどのような一歩を踏み出せるのか。三者それぞれの経験と立場から、そのヒントを探ります。
1. 地域を越えた連携を支えるInnoHubへの期待
全国の情報から、具体的な対話へ

– ヘルスケアに取り組む人や組織が地域を越えて連携していくために、InnoHubをどのように評価し、何を期待していますか?
水野:InnoHubは、ヘルスケア分野で研究をし、開発をし、事業を目指している人が、日本にどれだけいて、どんなテーマに取り組んでいるのかが見えるプラットフォームとして、とてもいい取り組みだと思っています。
ただ、プラットフォームがあるだけでは足りません。
InnoHubではマッチング機会も提供されていますが、今後さらに具体的な対話や連携につながる取組みが広がることを期待しています。
地域によって必要なサービスも考え方も違いますから、全国を見渡せる基盤の上に、地域ごと、業種ごとといった切り口を設け、もっと具体的にコミュニケーションできるところまで展開することで、より実践的な連携が生まれていくのではないでしょうか。
そして、成果を上げた企業には、その経験や知見を共有してもらいたいと思います。
記事や書物では語りきれないこともありますから、出会いの場、語らいの場も併せてあると、ノウハウを共有する機会になるのではないでしょうか。

木村:私は、技術やサービスを提供する企業だけでなく、医療や生活の現場で課題を感じている方、大学で研究成果を持ちながら活用方法を考えている方などが、「何に困っているか」を持ち寄れる場になるといいと思っています。
利用者の視点や現場の課題が、もっと集まるようになることを期待しています。
同じ言葉で、同じことを指しているか
– InnoHubで連携を進めるうえで、特に課題だと感じていることはありますか?
水野:使っている言葉の意味を揃えることが大事だと考えています。私は「コントロールド・ターミノロジー」、言葉の定義を共有することが最も大事なことのひとつだと考えています。
例えば、「研究開発」という言葉。
私たちは研究を、科学を基盤に学理を追求することと定義しています。一方、開発は、技術を基盤に、人間の社会や生活に役立つものをつくり出すことと定義しています。研究について話している人の言葉を相手が開発の話として聞いていたら、ずれてしまいますよね。
加えて特に混同されやすいのが、「事業」と「事業化」です。私は、事業とは、サービスを社会に提供し、お金を稼ぐことだと捉えています。一方、事業化は、開発から事業へと移っていくプロセスと捉えています。
「化」という字が付いているとおり、事業へと変わっていく途中なんですね。
だから私は、「事業化を目指す」という言い方にもこだわります。目指すのは、実際にサービスを社会に提供し、お金を稼ぐ「事業」であって、そこへ向かうプロセス、すなわち「事業化」ではありません。途中の過程と、到達したいところを分けて考える必要があるんですね。
同じ「社会実装」という言葉でも、一方は商品等サービスを市場に出す「実用」を考え、もう一方はお金を稼ぐ「事業」を考えているかもしれません。言葉が同じでも、目指すところが違えば議論はかみ合いませんし、後になってそのずれに気づくこともあります。
ですからInnoHubでも、「ここでいう研究、開発、実用、事業とは何か」「事業と事業化はどう違うのか」といった主要な言葉の意味を、辞書のように定義し、共有できるようにしてほしいと思っています。
それを議論の土台にして、同じ認識で話し始めることが、より短い時間で成果に近づくためにも必要だと考えています。
松元:私たちはInnoHubのプロジェクトそのものというより、InnoHubに関わっている皆様との連携が中心なので、これまでの経験からのお話させてください。
これまでスタートアップで働いてきた中で、マッチングの機会をいただいても、相手の企業がそこで何をしたいのかによって、話の進み方が変わると感じてきました。新しい事業をつくりたいのか、社内の取り組みに生かす知見を得たいのかといった目的にずれがあると、スタートアップの事業が進むきっかけになりにくいこともあります。
スタートアップ側と企業側、それぞれが何を得たいのかをすり合わせて、目的を共有したうえで話せる機会になるとうれしいですね。
研究者が走り切る「マラソン」から、役割をつなぐ「駅伝」へ

– 研究から開発、事業へと進める担い手をつなぐために、どのような仕組みが必要だとお考えですか?
水野:研究者が、自分で研究をし、開発もして、事業も行い、最後まで走り切ろうとすると、本当は研究に専念したいのに、別の仕事も全部自分で担わなければいけなくなります。大事なことは、研究の成果を、開発を通して事業につなげ、社会を変えていく、いわゆるイノベーションの誘導は、研究者一人が最初から最後まで走り切る「マラソン」ではなく、その場その場で最も適任となる仲間にきちんと引き継いていく「駅伝」だという考えです。
その実現には、大企業が常にスタートアップの取り組みに目を向け、良い取り組みを引き継いでいくというスタイルが重要です。引き継ぎ先となる企業が継続的に関心を持つ状況、すなわちM&Aの機会をもっとつくってほしいです。
InnoHubにも、スタートアップと、その取り組みを引き継ぐ企業の双方が見える場へ広がってほしいと思います。もう一つ大事なことは、その事業がいったい誰の研究成果から始まったのかを、最後まで明確に残すことです。
研究者にとって、自分が生み出した研究成果が事業につながったと分かることが重要ですし、事業で得た収益の一部が研究者に戻る、すなわち還元のプロセスも必要です。それらが明確であれば、研究者も安心して次の人に託せますよね。そこも含めた仕組みづくりを期待しています。
2.次の一歩は、やりたいことと困っていることを伝えるところから
完成した企画でなくても、問いを持ち寄る
– これから社会実装に挑戦する方や、連携を検討する方へ、伝えたいことや、ともに取り組んでいきたいことを教えてください。
神谷:スタートアップや研究者の起業を支援する制度は、知らないだけでかなりあると感じています。自分の足で動いて、「これをやりたいけれど、ここに課題がある」と発信すると、誰かがアドバイスや支援をしてくれることがあります。
とにかく、「自分はこれをやりたい。でも、これに困っている」と発信し続けることで、道が開ける可能性があると思っています。
松元:私は研究者が挑戦できる機会や選択肢を増やしたいという思いがあります。これは会社として正式に掲げているミッションということではありませんが、研究者が大学に残ることも、企業でいろいろなことに挑戦することも、後押しできる会社でありたいと思っています。
私たちも、その選択肢の一つになりたいと思っています。ラボだけで終わらず、ラボからマーケットへつなげるところまで、頑張っていきたいですね。

木村:スタートアップとの連携を考えている企業、大学、医療機関、支援者の方々には、完成された企画や協業案だけでなく、「現場で今、こんなことに困っている」ということや、まだ答えの出ていない問いも持ち寄っていただきたいですね。
そこから一緒に考えられることも多いと思っています。

水野:私が支援するときには、科学的な確からしさや、倫理的・社会的に適切であることは当然の前提です。
そのうえで、決め手になるのはパッション、つまり情熱なんです。「これを実現し事業になれば、必ず人が、社会が幸せになるはず」という確固たる信念を持っているかとどうかということですね。
Rhelixaのお二人にはそれがあったので、私たちも応えようと思いました。そして、「誰を対象に、何を提供し、ほかと比べて何が違い、何を目指すのかを明確にしてください。」とお願いしました。
そして信頼性の高いデータを集め、科学的に検証し、アウトプットとアウトカムも分けて考え、その先に人の幸せ、社会の幸せを見据えてほしいと思っています。
【今回ご紹介した企業・団体】